スピーカーで大切なことはすべてYoshii9が教えてくれた(スピーカーについて深く考えすぎる③)



異論は色々あると思うけど、理想的なスピーカーについて考える場合に、由井啓之氏の提唱しているタイムドメイン理論は避けて通る事ができないだろうと僕は確信している。

特に株式会社タイムドメインから販売されているこの理論を体現化した「Yoshii9」というスピーカーについてはその作りが大変興味深く、ボクがスピーカーを考える際に、必ず頭の片隅にあり、おそらく他のどんなスピーカーよりもずっと長い時間、その構造、理論の妥当性について深く情報収集し、深く考えてきたように思う。

今回は、スピーカーを考える上で大変に重要な、このYoshii9について紹介しつつ、今そこにあるスピーカーの問題と、その解決の糸口について考えてみる事にしたい。

まあ、さっさとお前が買えよという話になるんだけど(笑)




目次

  1. タイムドメイン理論とは何か
  2. Yoshii9の基本構造解説
  3. 片ch8cm口径フルレンジスピーカーユニット一発ってどうなの?
  4. 背面開放型+円筒形エンクロージャーってどう?
  5. フローティング構造&仮想グラウンドに対する個人的見解
  6. この構造から生み出される「リアルな音」とは
  7. 結局のところ「タイムドメイン」ってどうなの?
  8. おまけ:ボクがYoshii9を買わないワケ

タイムドメイン理論とは何か


ボクはタイムドメイン理論で展開されている事の全てを理解しているわけではない(振動系の理論周りが大変に難しい)し、また、全てに迎合しているわけでもない。

それは宗教なんかと同じで「全てに迎合するなんてハナからおかしいだろ」という天邪鬼な性格のせいもあるのだけど、ある程度この理論に対しては中立であるという事は宣言しておきたい。(当然、タイムドメイン社からも1円ももらっていない。)

とは言うものの、タイムドメイン理論を採用したスピーカーの構造には、「本質的に納得できる」部分が多く、当然、ボクがスピーカーを考える際はタイムドメイン理論的なエッセンスは必ず含まれ、前回、スピーカーを自作していると書いたけど、僕のスピーカー作りにも多大な影響を与えている(というかパクっている笑)事は間違いない。

タイムドメイン理論とは何か。それは、タイムドメイン、つまり「時間領域」を軸にオーディオを一から考え直すというのがその本質となる。

それは、この対義語となる「周波数領域(周波数ドメイン)」がそもそものオーディオ業界では重視されていて、それに対するアンチテーゼという意味合いも強い。

皆さんもスピーカーの特性を表した以下のような表を見たことがあるだろう。

AURA SOUND NS3-193-8AのDatasheetより参照

これこそが、まさに「周波数ドメイン」での評価の典型的な例で「高域と低域が伸びていて、全体がフラットであれば良いスピーカー」だというのが、オーディオ業界での一般的な評価基準となっている事は周知の事実である。

このような状況に対して、意義を唱えたのが、タイムドメイン社の社長である由井啓之氏で、彼はリアルな音を実現する主な要素は周波数特性にあるのではなく、時間軸における追従性であるはずなのに、時間軸における過渡応答特性を重視しないのはおかしいと考えて、独自の理論を突き進め、独自理論にもとづく、「他のどんなスピーカーとも違う」タイムドメイン方式のスピーカーを発明し、それに適用した実践的な理論を体系的にまとめたものがつまり、タイムドメイン理論という事になる。

由井氏の提唱しているタイムドメイン理論の内容については、下記のタイムドメイン社の説明ページが詳しいので、こちらを是非参照いただきたい。

タイムドメインとスピーカー:技術と理論― TIMEDOMAIN (心のオーディオ ~自然な音のスピーカー )
タイムドメイン理論とは何か。

これを読んでもらうとわかると思うけど、あくまで自然な音というのは、「足りないから足す」という従来のオーディオのやり方ではなくて、「原音をなるべく変えず損なわないようにする」という事、それのみを正しいやり方で追求する、という姿勢がタイムドメイン理論の基本姿勢であり、ボクもこの点は大変に共感を覚えるし、下手にオーディオを追求する手前の入り口で、このような理論に出会えたのは運が良かったとも思える。

先に、「周波数ドメインに対するアンチテーゼ」と書いたけど、周波数特性を改善するために行っているありとあらゆる手法、例えば、低域を伸ばすためにユニット口径を大きくしたり、バスレフポートを追加したり、ツイーター&ウーファーのマルチユニット構成にしたりする事が、ことごとく時間軸の追従性を損なう要因となっており、これらを除外し、一からスピーカーを考え直した結果が、つまりタイムドメインの肝と言っていいだろう。

なお、以下のような表記を見れば「最近このページを参照した記憶のない私が同じような事を書いている」ことがわかり、いかに私がこの理論を吸収し、我が物にしている事がわかるだろうか(笑)

「これはよく認識して欲しいと思います。みなさんが従来の高級オーディオの試聴室で耳にしている音は、音源が奏でている音ではないということを。それらはアンプやイコライザーや過剰につけられたスピーカーが作り出す音であることを。それに親しんだ人は、せっかくの生音をライブで聴いたとききっとこう言うかもしれません。「少し低音が沈んでいる」と。」


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Yoshii9の基本構造解説


さて、タイムドメイン社の出しているスピーカーの中で由井啓之氏自らの名を冠している「Yoshii9」こそが、現在販売されているタイムドメイン方式のスピーカーの王道であり、基準である事は間違いないだろう。

そのYoshii9であるが見たことが無い人のために紹介すると、以下のような形状をしている。


初見の人は「??」となって、何故煙突の記事になったんだと、思わずブラウザを閉じてしまうかもしれない。ちなみに下に置いてあるのは専用アンプであり、掃除中のルンバではない(笑)

そう、これはれっきとしたスピーカーであり、スピーカーユニットはどこにあるかというと、冒頭の写真を再掲するけど、その筒状の先端に上向きに配置されているのがわかるだろうか。いずれにせよ、我々が一般的に考えるスピーカーとは大きく異なる事はわかっていただけるだろう。


本体はアルミ製の円筒となっており、下部は特に閉じられる事無く、開放されており、まあ言わば背面開放型の亜種といった構造になっていると考えても良いかもしれない。

そして、スピーカーユニットは8cmの小口径ユニットが左右に1つずつ使用されており、こちらはFostex社の特注品という事である。

なお、スピーカーユニットとアルミボディは特に「接合されておらず」、アルミボディ側上部にゲル状の緩衝材が取り付けられており、その上にユニットが置かれたような構造となっている。

また、スピーカーユニットの背面には長い棒状の1.4kgの重さの錘が取り付けられていて、円筒の中でぶら下がった状態になっている。

さて、どうだろう。

Why Yoshii-SAN?」と叫ばずにはいられないんじゃないだろうか(笑)

タイムドメイン理論に触れた事のない人にとって、この構造は正直、奇異に見えるだろうし、その価値もきっと誰も理解できない事だろう。そして、これが30万円以上する(専用アンプ同梱)と聞いたらどうだろう?

正直、嫁に黙って買って、値段がバレた日には、きっとビンタどころで済まないんじゃないかと思う(笑)

でもね、Yoshii9は奥深い

その見た目や構成パーツでは語りきれない、僕らがスピーカーについて考える上で重要な一つの最高のお手本だと言い切っていいと思う。

Yoshii9の構造とタイムドメイン理論を理解する事は、きっと「理想的なスピーカー」を考える上での一助になるだろうということで、次にその構造の特徴と僕なりの分析内容について書いてみたいと思う。


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片ch8cm口径フルレンジスピーカーユニット一発ってどうなの?


高級スピーカーを買い漁ってきた人にとって、この「片CH8cm口径フルレンジスピーカーユニット一発」という構成はどのように目に映るのだろう。

フルレンジユニットには、年々改善が進んではいるが、それでもダイナミックレンジの狭さや高域や低域における歪みという欠点があるので、そんなものが気になるかもしれない。

そういった欠点を含むにも関わらず、Yoshii9がこのサイズのユニットを採用している理由。それは、まさに「過渡応答特性」をまず第一に考えるその思想にある。

その原理は簡単だ。「スピーカーコーンが軽量でないと追従性能が落ちる」からだ。タイムドドメイン理論では、このスピーカーコーンが軽量である事を重視する。実際にYoshii9のスピーカーユニットのコーンは1.4gしかないそうだ。

低域再生能力にギリギリ許容できるであろう8cm口径、かつペーパーコーンのユニットが最適解と判断されたのだろう。

そして、フルレンジ一発のYoshii9の構成では、通常のスピーカーで問題になるような以下の課題を考える必要が無い。

・中高域/低域に音声を分離するネットワーク回路による劣化および遅延
・ツイーター/ウーファーユニットの性質が異なることによる音の乱れ
・バスレフポートによるヘルムホルツ共鳴で発生する群遅延

これらは、全てが遅延や音の乱れなど、「原音から遠ざかる原因」になるような要素となっていて、タイムドメイン理論では、トレードオフとして「マルチユニット&バスレフ」で得られるメリットを全て捨て、より「原音を損なわない」利点のみを追求した構造にシフトしている事がわかるだろう。

スピーカーの歴史上、マルチチャネルはフルレンジの歪みやダイナミックレンジの狭さを解決するための手法として採用されてきたのだけど、結果として、「原音は損なわれる」結果となったという事は理解しておくべきだと僕は思う。

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背面開放型+円筒形エンクロージャーってどう?


多くの人がYoshii9の構造と理論に触れて思うことがある。

それは「これ、自分で作れるんじゃね?」だ。


上記写真はボクがYoshii9にインスピレーションを受けて作成したその名も「ガテン・ゼロ」、、、はい、ガムテープにユニット載せただけです(笑)

しかも、こんなのでそこそこいい音出たりして困る、、、おっと脱線。

まあ、ちょっと作りたくなる形状だし、意外と簡単に作れそうな気にもなるのがわかるだろうか。


実際に多くの人が、この構造に惚れ込み、自作にチャレンジしているのをブログにアップしており、ボクもこれまでにそういった記事を数多く見てきた。

だけど、実際のところ、Yoshii9の再現には皆、何かしら失敗しており、あまりうまくいっているような印象がない。当然、ボクも似たような事にチャレンジしかけた事があるのだけど、すぐにその実現の難しさに気付き、あまり深追いしないまま諦めた経緯がある。

それは何故か?何がいったい難しいのか。

それは「背面開放の細い円筒形ボディ」というのが大変に扱いづらいという点、それに尽きる。

経験則でもわかる事だけど、硬い筒に風が当たると「ボーボー」といった類の音が出るのは皆さんも知っていると思う。

スピーカーユニット背面に筒があると、この共鳴現象のせいで、なんとも筒臭い、余計な付帯音が発生してしまう。

Yoshii9ではこの筒くさい共鳴音を表面をホーニングという特殊な処理で硬化したあとで硬質アルマイト処理するなどして、「力技で」抑え込む事に成功しているようだ。ここは、十分に経験則やノウハウが生きている箇所なので、真似ができないポイントになっている。

そんなに苦労してまでYoshii9がこの構造を採用している理由。

これはあまり解説では語られているのを見たことが無いので行間からの僕の憶測になるけど、以下のような目的でこのような形状になっているのだと考えている。

・スピーカーユニットをフローティング構造とするための最適構造

後で詳細について書きたいと思うけど、Yoshii9はフローティング構造という特殊な構造をしていて、スピーカーユニットをボディから浮かせる、という構造を実現するためには、このスピーカーユニットを上向きに取り付けるという構造は、円筒の上にユニットを置く事のみで完結させる事ができ、単純ではあるが、最適な構造と言えるだろう。

・スピーカーユニットの動作を阻害しないように背面開放としてユニットの追従を最大化

スピーカー背面の空間が密閉/半密閉されていると、そこに空気ばねが発生し、スピーカーユニットの動作を阻害する事になってしまう。ユニットの追従性能を最大化するためには、背面は開放し、ユニットが正確に動けるようにするのが最適だろう。

・音道を直線にし、余計な(戻りの)反射を抑え、背面からの漏れ音の遅延を最小化

通常のスピーカーのように、箱型構造をしていると、内部で中高域が乱反射され、音道の距離の異なる音声がスピーカーコーンやバスレフポートから漏れ出て、音を濁らせる原因となってしまう。Yoshii9の筒の長さからすると、その背面から放出される音の遅れは3msという事なので、漏れる音の最適化をしていると考えて良いのではないだろうか。

・音道の距離を稼ぐ事で、円筒内で高域を減衰させ、減衰されにくい低域のみを得る。

周波数の高い波動ほど、距離による減衰が大きく、音道の距離が長くなれば、高い音は減衰し、低い音はあまり減衰せずに背面より放出される事になる。


また、当然、Yoshii9内部は何らかの吸音処理が施されているだろうので、音道が長くなれば、低域こそその性質から減衰しにくいけど、中高域は吸収等により減衰する確率が高くなるだろう。また、まだ確証は得ていないのでここでは書かないけど、他の中高域の消音をするための技術も適用されているような”気がする”。

結果としてYoshii9下部から放出される音声は、中高域がよく減衰された音となっていて、遅れも3ms程度で十分小さく、かつ低域の指向性は低いため、上部から出ている音とうまく融合する可能性も高い。

まあ、バスレフのように極端に増幅されたようなものにはならないとして、8cmという小さなユニットを採用しているにしては量感のある低域を得られる可能性もあるんじゃないかと思う。

うーん、我ながらなんという分析力(笑)

ちなみにもう一度言っておくけど、ボクはYoshii9を所持もしていないし、聴いたこともない(笑)


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フローティング構造&仮想グラウンドに対する個人的見解


さて、Yoshii9の構造の重要なポイントとしてもう1点あり、それがフローティング構造&仮想グラウンドと呼ばれるものだ。

言葉で説明したところでイメージが沸くかわからないけど、一応説明してみると、Yoshii9はスピーカーユニット下部に1.4㎏の棒状の錘が接合されていて、このユニットと錘の塊を、ボディ部の上部に配置されたリング状のゲルで支えるような構造を取っている。

実際の構造については、以下のリンクの概念図を参照いただきたい

タイムドメインとスピーカー:技術と理論― TIMEDOMAIN (心のオーディオ ~自然な音のスピーカー )
図7 タイムドメイン型スピーカーの概念図 ...
「図7 タイムドメイン型スピーカーの概念図」を参照。

さて、何故このような構造を取っているのか。

よく、Yoshii9もどきのスピーカーを作成している人のブログなどを見るとこの「接合部のリング状のゲル」を訳も分からず重視している人がいたりするのだけど、僕は、これは単に、アルミのボディに振動を伝わらないようにしているだけで、重要なのは、あたかもスピーカーユニットのフレームが地面(つまりグラウンド)と接合されているかのように空間にガッチリ固定されている事だと理解している。

Wikipediaの減衰振動の項から引用

スピーカーユニットの構造は超シンプルにモデル化すると、上記のような単純なばね・ダンパ系で表現できるのだけど、この構造でいうと、mの部分がスピーカーコーン(&ボイスコイル)、KおよびCがダンパおよびエッジ部分、そして下部の地面部分がスピーカーユニットのフレーム部という事になる。

ここで、もし「地面が振動してしまう」とした場合、mの位置であるXに影響が出てしまう。実際にスピーカーコーンが電磁力によって制動される場合、その反作用も働き、フレーム部が揺れてしまう事も想像に難くない。

そこでYoshii9では、このグラウンドとして作用するスピーカーフレーム部をスピーカーコーンの質量である1.4gの1000倍である1.4㎏にまで増やすことで、仮想グラウンドとし、少々力技であるけど、その錘の慣性の法則(静止している物体はいつまでも静止し続ける)を利用することでスピーカーフレームの振動を抑え、スピーカーコーンの動作をより正確にする事を実現している。

あくまでゲルや円筒形というのは、この構造を空間にまるで浮いているかのように支持する(フローティング構造)ための最適解として考えた方が良いだろう。


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この構造から生み出される「リアルな音」とは



さて、徹底的な「時間軸の追従性能を追求」する事で得られるその出音はいったいどういう物になるだろうか。先ほどタイムドメイン社の技術紹介のページを紹介したけど、そこに書かれている特徴は以下の通り。

自然な音。 いくら聴いても疲れない。
音像がリアル。 実在している様に聞こえる。 遠近、広がり、上下まで。
音場感が豊か。 雰囲気まで伝わる。
音離れが良い。 スピーカーが鳴っているように思えない。 空間から音が出る。
距離が離れても音は崩れない。 離れても音量は余り変わらず遠くまで届く。
音量を下げても音は崩れずはっきり聞こえる。 騒音の中でも聞き取れる。
音の分離が良い。 オーケストラのいろいろな楽器が聞き取れる。
物音や環境音がはっとするほどリアル。 自然楽器の音がリアルで表情豊か。
会話がはっきり聞き取れる。 英語の発音がはっきり聞き取れる。
口の形や開き方、舌や歯の動きや位置が分かる。
女性ボーカルのサ行強調が無く、胴間声にならない。
低音楽器の半音の動きが聞き取れる。 低音楽器の奏法、音色の変化が良く分かる。
演奏会場の物音、観客の話声、微少な音が聞える。
古い録音や、LP、コンパクトカセット、TVの音もリアルに忠実度高く驚く。
声や楽音の頭に低音がしっかり付いて上質の音が自然に響く。

上記に記載されている内容はほぼ正しい。ただし、僕は本物のYoshii9の音を聴いたことが無いので、「会話がはっきり聞き取れる」という部分は、Yoshii9もどきのスピーカーでは実感ができず、Yoshii9ではここは何かユニットに工夫があるのか、更なる調査が必要なポイントとなっている。

なお、上記の実感ができない理由だけど、「高域の音には指向性がある」ため、Yoshii9のような上向きのスピーカーでは構造上、横方向の出音は高域程、減衰されてしまうはずで、会話のような「本来真正面から飛んでくるような音」は苦手で、実際スピーカーから出てくる音も特に「男性のボソボソ声」は聴こえにくい印象を持っている。

僕の過去に自作したYoshii9もどきのスピーカーでは、ノルウェイの森の松山ケンイチのセリフなどほとんど聴きとれなかった(笑)

「Yoshii9ではそういった問題はない」と皆が口々に声を揃えて言うので、例えばユニットをハイ上がりにしているなどの他の工夫がそこにあるのだと思っている。由井氏はこのあたり、おそらく質問すると「特別何もしていない。」と答えるだろうと予想していて、真実は闇の中にまだあるのだけど(笑)

あと、増幅していないので低域の量感についても、通常のバスレフスピーカーなどに比べればかなり小さく聴こえる可能性がある。ただ、これも「低域増幅型のスピーカーが再生しているような低域が音源に含まれているのか」という原点に立ち戻れば、やはり真実は闇という事になるだろう(笑)

そういう意味では、テレビや映画用のスピーカーとしては「最適なスピーカー」ではないんじゃないかとは個人的に思っている。そういった用途であればおそらく、前回紹介したようなDV62siなどの多少大きめのバスレフスピーカーを性能の良いアンプで駆動した方がより良い結果が得られる可能性は高いだろう。

ただし、ボクの実感として欠点はこれくらいで、特に「リアルな楽器音」や「女性ボーカル」、ストリートミュージシャンやスタジオライブなどの空気感を含むような音声の再生には、「通常のスピーカーとは異次元のハッと息を飲むような出音」を感じる瞬間があり、タイムドメイン理論型スピーカーがある特定のジャンルでは他を寄せ付けない性能を発揮する事は間違いないだろう。

なお、このタイプのスピーカー、「音源を正確に再生する」事になるので、つまり「スピーカーやアンプが音に化粧をしない」ため、「ひどい録音の音源はそのまま再生する」ことになり、おそらくはこれが「一番の課題となる」のだけど、まあ、それはそれで楽しみのうちという事で。(ある女性ボーカルがどうにも声にかけたエフェクトがきつくて聴かなくなる、大好きだったCDが実際はひどい録音で聴かなくなる、音圧至上主義の最近のCDが聴けなくなるなど、タイムドメインあるあるが満載(笑))

余談だけど、昔、一緒に仕事をしていた「自宅のシステム全体で数百万という重度のオーディオマニア」がいたのだけど、最終的にYoshii9を購入して、「他のスピーカー全部いらなくなった」と言っていたという都市伝説もあったり(笑)

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結局のところ「タイムドメイン」ってどうなの?


どうだろう。スピーカーを深く考える上で、Yoshii9の構造およびタイムドメイン理論がいかに重要であるか、理解してもらえただろうか。特に「周波数帯域ではなく時間領域に着目する事でリアルな音声となる」という点は、新しい視点として重要なポイントであろう。

昔、「美味しんぼ」のどこかの回で、「売れなくなることを恐れて漬物に化学調味料を添加する」漬物屋の話があったけど、まさに周波数ドメインばかりを気にして、位相をグチャグチャにするネットワーク回路を必要とするマルチユニット構成やバスレフポートを標準装備しているごく一般的なスピーカーはこれに似た感情で成り立っているようにも思う。

とは言え、「逆に」位相差の遅れ等を犠牲にして、ハイレゾで必要となる高域や迫力のある重低音を実現するというのも、映画やそもそもが生楽器ではない打ち込み系の音楽などでは優位性があり、あらゆるダメ音源をそこそこで聴かせる事ができるという点はデメリットより享受できるメリットの方が大きくなると考えることもできる。

ぶっちゃけ化学調味料も美味しいという事は誰も否定できないわけで(笑)。

今回の記事からは、あくまで、周波数ドメインの実現方式にはデメリットがあり、特に「原音再生」のためには、タイムドメインが有利であるという事、今回の投稿ではそこを理解してもらえればと思う。

結論を述べるなら、万能なスピーカーは存在しておらず、この世界には周波数ドメインのスピーカーとタイムドメインのスピーカーの2種類が存在し、それぞれメリット/デメリットがある事を、少なくとも理想的なスピーカーを考える際には理解せねばならない。我々は所詮は消費者に過ぎないので、いずれが優位かを考えるのでは無く、適材適所で良い方を採用すれば良いという事になるだろう。

なお、個人的な意見としては周波数ドメイン/タイムドメインの2種類のスピーカーを所持し、適宜切り替えて使うのが最適解じゃないかと思ってるけど、もうここまで来ると変態の域かもしれない(笑)

おまけ:ボクがYoshii9を買わないワケ


そして、最後に「ボクがYoshii9を買わない理由」を(笑)。

まずは簡単な理由。それは、値段が勢いで購入できる価格帯に無い点(笑)。

また、その図体のでかさ(設置面積は小さいけど)も課題だろう。特に高さのあるスピーカーであるため、我が家のように常時子供が走り回っている家庭では危なっかしくて置けない。

この辺りは、過去に同じようなタイプのスピーカーを自作していた際に、「子供がぶつかって倒れてスピーカーユニットを2個ほど破壊された」経験からあと10年くらいは高さのあるスピーカーは設置しないぞと心に誓っている(笑)

あと、上向きスピーカーというものの構造上の原理としてどうしても「真正面から放出される人間の声を上向きで実現できるのか」という疑問が払しょくされない点(ボソボソしゃべる奴がそっぽを向いて話した声は聴き取れないだろという実感に即した懸念)。

ここはもう少し、横向きにボソボソしゃべる奴もハイ上がりにしておけば問題なく聴こえるようになるかなど、理論的裏付けが必要な要素となっているが、現時点ではこの疑問が解決されない限りは、ここまでの価格のスピーカーをポンと購入する程の財力はボクにはない(笑)。

タイムドメイン理論を採用したスピーカーの中には、この問題を解決するため、上部に音声を横方向に反射するための反射板を設けているものもあるのだけど、その方法だと、「タイムドメイン方式で感じるスピーカーが消える感覚が大きく損なわれる(つまり原音からは遠ざかっている)」印象が実感としてあるので、ここは反射板無しの構造が「正しい」んじゃないかと個人的には思っている。

というわけで、現時点では同じタイムドメイン社から出ている巷では大人気のTIMEDOMAIN Lightに手を出すくらいにボクも留まっている。


こちらはタイムドメイン理論が適用されたスピーカーの末弟で、Amazonのレビューでも高評価のスピーカーとなっており、Yoshii9のような「上向きスピーカーの懸念」も無い点、また価格も上記のリンク先に書いた通り、パフォーマンスからすると十分安いと思うので導入しやすいかと思う。

なお、アンプが非力というレビュー内容もあり、「なんとも改造したくなる」点も良いのだけど、それにしてはちと高いという欠点もある、なんともツンデレなスピーカーという一面もある(笑)




あと、ついでにタイムドメイン理論を適用したスピーカーをペチペチ貼っておくけど、それぞれ一長一短で、富士通テンのEclipseシリーズなんかは良くできている印象もあるけど、一番欲しい、TD510MK2がペアで20万以上するので、もうこれだとYoshii9買った方が良いような値段になるんだよなー。



結局のところ、色々浮気して見るのだけどタイムドメイン型スピーカーではYoshii9が唯一無二の存在である事を実感して、Yoshii9を購入するなんて人、結構いるんじゃないかと思うなあ。

30万円でゴールできるなら、それはきっと安い買い物だしね、オーディオって(笑)

※追記

上記はYoshii9をベースに書いたエントリとなっているけど、現在はYoshii9 MK2(マーク2)にアップグレードされている。


デザインはスタイリッシュになってて、ちょっと未来っぽくなってる?以下の楽天のショップが写真も大きくて、全体像が把握しやすいので興味があれば覗いてみてください。

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なお、変更点は主に「製造に関わる問題の解決」によるものみたいなので、音は変わらない模様。安心。




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